FAMOUS JAZZ CD 21 PROJECT | 21世紀の定番ジャズCD

1980年代のジャズ 100CD 選考座談会 vol.07

80年代の各々の個人史を振り返ってみると…

村井:
僕なんかは、世代的には80年代って22-32歳なのね。大学出たのが80年、『ジャズライフ』に書き出したのが87年だから、ちょうど学生じゃなくなってからこういうことを始めるのを含めて一番よく覚えている時代なんですけど、我々の周囲ではマンハッタン・ジャズ・クインテットもケニー・ドリューもリアル・タイムでは聴いてなかったですけどね。それは状況論としてはおもしろいけど、個人的な記憶としてはあんまり覚えていないんですよ。さっき出てきた話でいうと、ハービー・ハンコックのロック・イット・バンドというのはすごい流行って、グラミー賞もとって、ある種の衝撃性があった、時代に対してものすごく新しいことをしているという意味も含めて。ハンコックとビル・ラズウェルのコラボレーションだから、音楽的な質も高いんだけどここには入ってこない。ここに入ってこないということはこの6人が誰も今おもしろいと思っていないってことなんですよね。そのあたりの話をしてみたいんですけど。

Future Shock / Herbie Hancock

益子:
僕は80年代はリアル・タイムでジャズを聴いていなくて、当時はロック・ファンだったわけですよ。80年代ってロック・ファンの視点で言うとMTVの真っただ中で、ロック・イットはMTVの中のものなんですよ、はっきり言って。これがジャズに関わる音楽だなんてまったく思わなかったです。あれはヒップ・ホップとかの流れから出てきた新しい音楽だと。ただ聴いていておもしろかったか、というとそんなにおもしろくなかったんですよね。MTVは良く出来ていましたけど。
だから、ジャズがらみの音楽だと思わなかったというのが一つと、音楽的にそんなにおもしろいと思わなかった、この2つですね。ヒップ・ホップ系とか例のオーケストラ・ヒットとかね、もっとおもしろいものが他にあったので。
村井:
オーケストラ・ヒットって懐かしい言葉ですなぁ。
益子:
そのためだけに、フェアライト買ったりしてね。「ジャンッ」って音。
後藤:
須藤さん、どうですか?
須藤:
僕は80年っていうと高2なんですよ。
後藤:
音楽的にはもう大人じゃない。
須藤:
大人です。そこは僕の音楽聴き始めの頃で、どフュージョン期ですね。
後藤:
でもフュージョンっていうのはさ、70年代のほうが盛んだったんじゃないのかなぁ? そんなことないの?
須藤:
中学3年から聴き始めているんですけど、その頃聴いていたのが、渡辺貞夫の『モーニング・アイランド』ですかね。あとボブ・ジェームスとか、デイヴ・グルーシンですね。

モーニング・アイランド / 渡辺貞夫

後藤:
まぁ、彼らフュージョンのスターだもんね。
須藤:
あとクインシー・ジョーンズ。そこらへんを聴いていて、東京に出てきたのが、84年なんですけど、その頃からはECMファンになっていましたね。
後藤:
かなり落差があるね(笑)。この際、その辺りの遍歴を少し語っていただけないかなぁ。
須藤:
当時パット・メセニーとかキース・ジャレットの『ケルン・コンサート』とかECMとは知らずに聴いていたんです。そこにジョージ・ウィンストンとかも出てくるわけです。

The Koln Concert / Keith Jarrett

後藤:
うーん、なるほど。
須藤:
ジョージ・ウィンストンの『ディッセンバー』は今でもよく覚えているんですけど、札幌の時計台ビルというところがあって、そこに『ディッセンバー』とスティーヴ・カーンの『アイ・ウィットネス』のジャケットが全面に飾ってあって、その2枚を買って帰った覚えがあります。

December / George Winston

後藤:
あっ、なんとなくわかってきたけれども、その当時の須藤さんのカテゴリーの中では音がいいとか、きれいだとか、サウンド的に洗練されているとか、そういう括りでいうとフュージョンとECMは結構近いって感覚があったのかなぁ。
須藤:
そんな感じですね。メセニーの『アメリカン・ガレージ』とかもろフュージョンだし。しかし、まだ他のECMのアルバムには全然手が出ていなかったんですよ。

American Garage / Pat Metheny Group

後藤:
あ、そうか。僕なんかの感覚でいうと、どうしてフュージョンからECMへなるんだろうって思うんですけど、それは70年代フュージョンっていうと、スタッフだとか、クルセイダーズなんかが頭にあって、そこからECMってかなり離れているように思うけど、ものによっては同じ括りも出来るってことですね?

Stuff / Stuff

Street Life / The Crusaders

村井:
いろいろあるからね、フュージョンっていっても。
益子:
フュージョンって大きく分けると2種類あって、スタッフみたいなソウル系っていうか、黒っぽいやつと、もっとテクニカルなものと2種類あったんです。そうすると、僕らなんかの当時、バンドをやっていたような人間の感覚で言うと、テクニカルなものはプログレに近いんですよ。で、その流れってECMに行きやすいんです。音がクリアだという共通点もあるし。
後藤:
あー、なるほどね、そういう回路があるんだ。よくわかります。
須藤:
大学の生協でよく中古のLPセールがあったんですよ。そこでECMのLPが何枚かあって、ジャケットが素晴らしくて買ったんです。それがハマリのきっかけですね。
後藤:
具体的にはどんなアルバム?
須藤:
テリエ・リピダルの『アフター・ザ・レイン』やゲイリー・ピーコックの『ディッセンバー・ポエムス』、ガルバレクが入っているのだけどその頃はまだ知らなくて。おもしろいレーベルがあるなぁって。家帰ってみたら、パット・メセニーもECMだ、キース・ジャレットもECMなんだ、どういうレーベルなんだろう? って思ってはまっていったって感じです。だから80年代は私の中ではフュージョンとECMの時代なんです。

After the Rain / Terje Rypdal

December Poems / Gary Peacock

後藤:
ようやく謎が解けました。なんで、フュージョンからECMになるのかなぁって不思議だったんだけど、納得です。

※ この原稿は2008年7月5日に都内某所で行われた座談会の模様を再構成したものです。